■ 半田ごて温度調節装置

 [2007/03/04]


 仕事場でも簡単な改造が出 来るようにとHOZANのHS-50を購入したのですが、これがまた便利でやみつきになりました。半田ごての温度が設定できるというのは便利です。でも6 万円は高い。仕事用なら我慢できますが趣味のために6万円はちと痛いです。我が家の大蔵大臣は絶対にOKをださないでしょう、でも欲しい。そこで買えない のなら作ってしまえということに。

 半田ごての温度を調節する には温度センサーが必要です。でも一般の半田ごてには温度センサーなんて付いていません。改造して付けようかと思ったのですがセンサーが入るスペースは無 し。無理矢理付けてもコードが邪魔になりそう。


● 温度センサーレス


 ふと思いついたのが温度と 抵抗の関係。30Wの半田ごての抵抗を測ると150Ω。本来なら300Ω以上あるはずなのですが計算が合いませ ん。これは常温で150Ωだが高温になると300Ω以上になる。すなわち半田ごての抵抗値が温度の上昇によって 倍以上に高くなる訳です。ということは抵抗値が判れば温度が判る、半田ごて自体が温度センサーになるという事です。


● 検索


 ひょっとしたら同じ事を考 え試している方がいるのではと思い「半田ごて 温度 調節」のキーワードでGoogle検索してみました。すると「半 田ごて自動温度コントローラの製作」という記事がヒット。記事を読むとトラ技1995年10月号 P319に「センサレス半田ごて温度調節コントローラ」という名前の制作記事があったという記載が。トラ技は毎月欠かさず購読しているのですが気が付きま せんでした。それにしても同じような事を考える方もいるものですね。


 このWebページの回 路図 を見ると実に複雑。部品数が多いので回路が追えません。かろうじて定電圧回路の高圧版というところまでは理解できました。無精な私には到底このような複雑 な回路は組めま せん。

 そんな訳で、もう少しとい うか徹底的にシンプルに出来ないかと考えてみました。要は半田ごて発熱体の抵抗値が低ければ電流を流し抵抗値が高ければ電流を遮断する。たったそれだけの ことのはず。そこで考えたのが下記回路。

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 どうですか実に単純で簡単 な回路ではありませんか。ブリッジで半田ごての抵抗値変化を検出しコンパレータで抵抗値(温度)が低ければソリッドステートリレー(SSR)をONにす 、。逆に抵抗値が高ければSSRをオフにするという簡単な回路。それにSSRにゼロクロスタイプを使えばノイズも出ないはず(前回のドリルモータからゼロ クロス・スイッチにハマっています)。


 この回路のミソはD1ダイ オードです。ブリッジには全波整流された電圧が印加されています。このままだとゼロボルトになりブリッジ回路の出力はゼロになってしまいます。そうなると コンパレータの出力もゼロになりSSRがOFFになってしまいます。そこでゼロボルトを避けるためわざとD1を介してブリッジ回路に電圧を加えています。 これによりブリッジ回路は最低でも10V程度の電圧が加わることになり、コンパレータが動作しないということにはなりません。もう一つ余計なD2ダイオー ドが付いていますが、これは100Vが電源回路の方に回り込まないようにするための保護、気持ちです。実際、1Ωの抵抗もしくはR1 がマイナス側から離れてしまうとコンパレータに最高でも140V以上の電圧がかかってしまいます。これは少々怖いです。まあコンパレータが壊れる程度なら 我慢しますが、これが電源回路の方まで影響するとなると。そんな訳でD2を付けています。これも単なる気持ち程度のものかもしれませんが。


 この回路では半田ごてを抜 くと抵抗は無限大となりコンパレータがOFFになりSSRもOFFになります。コンパレータにはLM339を使いました。このLM339には4回路のコン パレータが入っているのですが使っているのは一個だけです。これはもったいないので実際の回路ではSSRのON,OFFを確認する為のLED駆動に使って います。下記が実体配線図というか部品配置図です。

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 このLED、制御中はせわ しなく点滅するのでコントローラががんばっている所がよく判ります。この回路は一番小さい 72x47mm片面ユニバーサル基板に作り込めます。


● 調整


 R2は温度設定用のボ リュームで、R1は半田ごての違いを吸収する為のトリマー抵抗です。R2を中間に位置させ、R1のトリマーで半田ごてをいつも使う温度、例えば私なら鉛入 り半田で250℃程度、にします。これで調節は終わり。R2のボリュームで250±150℃程度の温度範囲で調節ができる(おお ざっぱです)。一度R1のトリマーを設定するとR2の回転位置と温度は一致するので温度目盛りを書いておけば温度設定がしやすくなります。

 そうそう半田ごては絶縁の しっかりしたセラミックヒーターを使ったものにしてください。と言うか普通のニクロム線を使った半田ごてでも使えるとは思うのですが試していないので判り ません。熱の発生部とコテ先の関係が熱的にしっかり結合していないように思えるのでたぶん上手く制御できないのではないでしょうか。

 ソリッドステートリレーに は秋月から購入したゼロクロスのタイプ D2W203Fを使っています。このD2W203Fはもう取り扱っていないようです。SSRキットはまだ売っているようなのでそれが代用として使えます。

 話は変わりますが秋月電子 で購入したもの、同じ物が欲しくなっても無い時が結構あります。多くは代替え品があるのですが面倒なのでいつも10個単位で買うようにしています。俺って 良い客だよな〜 そのせいで部屋は部品の山。でも部品は眺めているだけで夢が膨らみます。


● 実物


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 半田ごて台の右にある緑の ボックスが今回作った半田ごて温度調節装置です。思ったよりコンパクトに作ることができました。左のつまみの周りに黒い点があります。これは200℃、 250℃、300℃の位置になります。よく見たら写真に写っている半田ごてとコテ台2つ、これHOZAN製だな! こう考えるとHOZANって儲かってい るんだな〜


 20年以上使っている半田 ごては高千穂技研(電気かな?)製。まだ壊れていないのですが、コテ先が銅食われで小さな穴が空きヤバくなっています(クロムで保持、結構厚いクロム層の ようで す)。交換したいのですが、まだコテペン作っているのでしょうか?



● おまけ(温度計)


 今回苦労したのは何かとい えば半田ごての温度を測る温度計でした(これまではテスターに付いている温度計で計測)。でも測る度に熱電対をテスターに差し込むのも面倒で。それで専用 の温度計を作った訳です。本当の事を言えばテスターについている熱電対、これが1m位あり長くて邪魔なんです(バネみたいなところも嫌い)。そこで 10cm程度の短い熱電対を使おうと思い加工、ついでに温度計も作ってしまえ、といった感じで作った訳です。


 表示装置は秋月から購入し た 199.99mV表示ができるデジタル電圧計。熱電対はテスターに付いてきたK型熱電対を10cm程に切ったもの。冷接点補正はLM35温度センサーを使 いました。


● 熱電対


 テスターに付いてきたK型 熱電対(クロメル・アルメル)をソケットから外し10cm程度を切断します。長い方はテスターで使うかもしれないのでまたソケットを付けておきます。切断 した二本の熱電対の先端をペンチで少しねじり動かないようにします。ここで本来なら高温のガスバーナーで先端を溶かしクロメルとアルメルを融着させるので すが、そんな設備は家には無いので黒鉛棒(普通の鉛筆の芯でも可:油が含まれているのでガスレンジで炙っておく)と鉛バッテリーを二個(可能なら三個の方が強いアークが飛ぶので推薦)用意します。バッテ リーを二個直列に接続し一方を熱電対の反対側に、もう一方を黒鉛棒に接続。この状態で熱電対のねじった方に黒鉛棒を当てたり離したりしアーク放電をさせま す。

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 これを数回繰り返すと熱電 対の先端が高温になり丸い玉になります。クロメルとアルメルが融着します。これで熱電対の加工は終わり。思っている以上に簡単な作業です。ただしアー ク放電ですごい光が出るのでしばらくは目の前にアークの残像が残ります。溶接用サングラス、そう値段はしないので手に入れておいた方が便利かも。それから 溶接機が使えるならバッテリ−のかわりに溶接機を使って下さい。鉛筆の芯はマイナス側の方が良いかもしれません。何故かは不明ですが溶 着した丸い玉が出来やすいように思えます(バッテリー三個だと逆に丸い玉が落ちてしまうのでプラス側が良いかも。まあ色々と試してみて下さい)。あまり何回もやると脆くなるのでできるだけ速やかに少々熱くなっても我慢し素早く丸い玉を作った方が良いです。

 そういえば昔、クロメル・ アルメルを溶着する前ねじってはいかんと言われたのですが、未だに何で悪いのか(ねじって付けて問題が起こった経験無し)。もし知っている方がいたら教え て下さい。ちなみに私の場合は、極端な話ですが1cm位ねじり溶着の丸い玉が奇麗にできるまでアークを飛ばします。溶着玉がいびつだと使っているうちに断 線する事があります。まあ何事も経験なので色々と試してみて下さい。そういえばガスバーナーの炎の中でアークを飛ばしていた強者がいたな〜 まあ奇麗で大 きな玉ができるので良いかもしれない。


● 冷接点補正


 熱電対、今回使用したK型 熱電対は高温側と低温側の温度差によって生じる熱起電力を利用し電圧を温度に読み替えて測るものです。熱起電力は 40.7μV/℃です。低温側は一般(昔は)に魔法瓶に氷と水を入れ温度0℃を作り冷接点としていました。でも計測の度に魔法瓶と氷を用意 するのも面倒なので最近では温度センサーで疑似冷接点を作り補正しているようでです(本番の実験ではやはり氷を使うのでは?)。今回は温度センサーである LM35を使い冷接点補正することにしました。LM35は0℃で出力0Vになる非常に便利な素子です。そのためデジタル電圧計の零ボルト補正が不要です。

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 上記が冷接点補正の回路図 です。熱電対の出力にむりやり環境温度を直列に加えているだけです。これが正しいのかどうかは判りませんが、少なくてもGL200で校正すると表示値がGL200と一致します。この回路では分圧抵抗でLM35の出力 (10mV/℃)を熱電対と同じ 0.0407mV/℃にしています。2KΩトリマーでA点で計測した電圧に 0.00407を乗算した値になるよう正確に調節して下さい。言うのは簡単ですが普通のテスターの最小レンジは200mVなのでそう簡単にはいきません。 そこで何回か二点補正をします。計算上ではトリマーの抵抗値は1KΩ近辺なので、まずはその値にして高温でデジタル電圧計の方の調整 をします。次に低温というか室温で冷接点調整トリマーを調節します。また高温でと、これを数回繰り返す事で正確な調整ができます。


● デジタル電圧計の改造


  電圧計には秋月から購入し た4 1/2 表示のデジタル電圧計(PM-328)を使いました。でも最小感度は 10μV なので、このままでは感度が低すぎ使えません。そこで改造する事に。改造と言っても抵抗を一本取り替えるだけです。デジタル電圧計のPM-328 にはインターシルのICL7129を使っています。この34番ピンに与える電圧で感度をかえることができます。そこでその近くにある3KΩの 金属皮膜抵抗を39KΩの金属皮膜抵抗に取り替えます。これで内蔵のトリマーで正確な温度表示ができます。今回は小数 点以下1桁を持つ xxx.x℃の表示にしています(あまり意味は無いと思いますが)。


● 電源(電池)


 今回の温度計では冷接点補 正用に1個、デジタル電圧計に1個の計二個の006P積層乾電池を使っています。一見、無駄なように思えるかもしれませんが温度センサーも電圧計も殆ど電力を消 費しないので、たぶん数ヶ月以上保つと思います。私の場合、ダイソーで二個で105円の006P型マンガン電池を使っています。


● 実物

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 熱電対が短いので取り扱い が便利です。これに半田ごてのコテ先をのせる台を付け熱電対を付けようかと考えています。まだ材料が決まらないので熱電対は外に出しています。実は 断熱用に車のマフラー補修用のGUNGUM(ホルツ)を購入し色々と試しているのですが肝心の台をどうするか。銅だと食われるしアルミだと濡れない。何が 良いんでしょうね。

 そうそうGUNGUMは耐 熱補修パテですが、これ面白いのです。普通に放置すると普通に固まるのですが半田ごてで暖めると早く硬化するだけではなく中の溶剤と思われる物質が気化 し、まるで発泡スチロールのように膨らみます(中に泡が沢山入っている)。この泡の断熱性が測温用コテ台の断熱に良さそうなので使えるのではないかと期待 しています。


● 感想


 今回は半田ごて温度調節装 置を作ってみた訳ですが、回路図をみて判るよう、複雑な回路でもないし面倒な点も無いし、単に部品を結線すると働いてくれます。数時間でケースに入れた使 える物ができます。最初に想定した通りだと単に手作業をしたという感覚と疲れだけで何の達成感もありません。半田ごて温度調節装置は非常に重宝する(手放 せない)装置ですが作る面白みがあまりありません。


 今回、面白かったというか 興奮したのが半田ごての温度を測る温度計の製作です。熱電対の加工、これも久しぶりというか大学生の時いらいです。それにデジタル電圧計の改造。上手く改 造ができるか判らない不安と緊張感がたまりません。これこそが自作の醍醐味のような気がします。そういえば時計を壊したり、ラジオを壊したり、はたまたテ レビが故障したとき中を開け感電したり。そんな何も判らず無茶苦茶していた時の方が今よりよっぽど楽しかったように思えます。


Nishimura Hiromi