■ トロダイルコアの磁気飽和について(力率補正回路の試験も)


 [2009/04/12] Nishimura Hiromi


 電 流計(らしきもの)で紹介した回路、 AC100V の商用電源で使用するとなると数ワットではなく数百ワット単位になるででしょう。電圧は分圧抵抗で下げる事ができるが電流はそうもいきません。測定対象が 仮に 100W の機器であれば 1A(±1.414A) の電流が流れます。大電流で注意しなければならないのがトロダイルコアの磁気飽和です。使用するトロダイルコアが何アンペアの電流で飽和するかを考慮しな ければなりません(飽和する電流以上はの機器は計れない)。そこで電 流計(らしきもの)で紹介した乗算回路で使用したトロダイルコアの磁気飽和特性について調べてみました。

● トロダイルコアの加工

 最初に トロダイルコアにホール素子を埋め込む加工を紹介する。加工に使うのはミニルーターとダイヤモンドのカッター。ダイヤモンドカッターはダイソーで一枚 100円で売っている、いや軸も100円なので全部で200円か、いや消費税もあるので210円。このカッターでトロダイルコアに空隙を空けホール素子を 埋め込みます。加工は思ったより単・短時間(十数 秒)。面倒なのはコイルを巻くとき。トロダイルコアに隙間があるとコイルを巻くとき楽ですがホルマル線が擦れ被覆を剥がしてしまうことがあり ます。コイルを巻く時は注意して下さい。

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図1:使用したトロダイルコアとミニルータ(ダイヤモンドカッター?)


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図2:ホール素子とホール素子が入る隙間を空けたトロダイルコア

角でホルマル線の絶縁被覆を破る恐れ有り


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図3:トロダイルコアにホール素子を入れたところ


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図4:トロダイルコアにφ1.0mm のホルマル線を55回巻く。なるべ く多く巻いて試験後に巻数補正する。

コイルを巻き終わったらホール素子を空隙にセットしエポキシ系接着剤で固定する


● まずは磁気飽和の計測

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図5:55回巻きトロダイルコアの磁気飽和


 ホール素子に 2.2mA(5.57V) の一定電流を流し、コイルには所定の電流を流しホール素子出力電圧を計測します。上記グラフは、横軸がコイルに流す電流で縦軸がホール素子の出力電圧で す。図5のよう、コイルに流す電流が 2A を超えるとホール素子出力の直線性が悪くなるようです。今回使用したGaAs系のホール素子(THS126)は数千ガウスまで計測できるので、このグラフ にある非線形特性はホール素子の特性ではなくトロダイルコア自体がが磁気飽和したために生じた現象と考えられます。よって、このトロダイルコアを使用した コイルでは2A以上の電流計測ができないことになります。このコイルを使用した電力計測装置でAC100V の機器の電力を計測すると最大で200W程度のものしか計測できません(本当はそれ以下:後述)。トロダイルコアは思った以上に簡単に磁気飽和してしまう ようです。磁気飽和を利用するフラックスゲート式の磁力計には最適でしょう。


● 大電流にも使えるように


 大きな電流を計るには磁気飽和を防がなくてはなりません。対処方法は簡単で、コイルの巻数を減 らすだけです(いい加減ですね!)。コイルの巻数を減らすだけで本当に磁気飽和が防げるのでしょうか。そこでコイルの巻数を約半分の 25回にし試してみました。ホール素子の設定は同じ駆動電流 2.20mA(5.57V) です。

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図6:25回巻きトロダイルコアの磁気飽和


 図6のようにコイルの巻数を半分の25回にすると2倍の電流である4A近くまで計測できるよ うです。このコアで1KWの 10A まで計測するならコイルの巻数は 10回以下にする必要があるでしょう。大電流の電力計を作るならホール素子を使わないでカレントコイルと乗算器の組合せになるのでは。でも直流の電力を計 るならやっぱりホール素子だな!


● 突入電流の心配


 負荷が純粋な抵抗なら突入電流のような急激な電流増加はありません。でも力率の悪い電源回路 (普通の電源回路:後述)のように高い電圧の時だけ回路に電流が流れる場合には相当に電流計測に余裕を持つ必要があります。例えば下記図7はスイッチング ACアダプタの電圧と電流の波形です。スイッチング電源もAC100Vを整流し平滑してからスイッチングするので最初の平滑化で突発電流が発生します。


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図7:スイッチングACアダプタの電圧電流波形


 図7で青はAC100V(50V/div)の電圧波形で、赤は電流波形 (100mA/div)です。スイッチングACアダプタの電流波形(赤線)を見るとAC 電圧が 100V 近くになって初めて電流が流れ、その後電流は指数関数的に減少しています。ピークの電流は300mA強になっています。たぶん瞬間電力は 30W を超えていると思います(消費電力は1周期の積分)。話はかわりますが、この突発的な電流増加がある機器を多く使うと、本来は正弦波形であるべき電圧波形 が電圧の高い時だけ電 流が消費されるので次第にAC100Vのピークの電圧が低下し正弦波形が台形波形の様になります。この計測をしたのは昼前だったのでまだ正弦波形に近いの ですが、夕方には 台形のような波形になってしまいます(自宅は送電網の末端にある)。


 話を元に戻し、力率補正をしていない電源を使用している場合には上記のような突発的な電流が 流れるので電力計の電流計測範囲は電力から推定される電流より倍以上の余裕が必要となります(いや倍以上必要かもしれません)。AC100V用の電力計を 作る時には注意して下さい。


 少なくても図7の計測で使用したスイッチングACアダプタはまったく力率補正していないよう です。AC100V用の電力計(波形が見れるもの)が完成したら力率補正をしているスイッチングACアダプタを探してみようかと思っています。


● 力率補正?


 AC100V に対応する電力計、作るかどうか私自身まだ判りません(作る気力というか暇がないので)。でも力率補正には興味があります。そんな訳で自分で力率補正回路 を試してみました。本当に力率補正が可能なのか、また効果があるのか調べてみました。ここまで書いて、力率補正という言葉は知っていたが実際に試した事が 無かったので、試してみた次第です。


● 両波整流出力に抵抗負荷

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図8:両 波整流出力に100Ωの抵抗を負荷する回路


 図8に示すようAC100Vをトランスで6Vに下げ、両波整流し直接100Ωの抵抗を接続し た時の点Aの電力波形と点Bの電圧波形を見てみます。普通、こんな回路作りませんよね。


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図9:赤は点Aで 計測した電力波形、青は点Bの電圧波形


 結果、両波整流しているので電圧波形と電力波形はほぼ相似になっています(至極当り前の結 果)。消費電力は電圧に比例しているので力率は100%です。この回路、両 波(全波)整流する意味が無いのですが一応話の流れとして。


● 両波整流出力を平滑化し抵抗を負荷する


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図10:両波整流出力を電解コンデンサーで平滑、その後に100Ωの抵抗を負荷する回路


 両波整流の後に 3300μFの電解コンデンサーで平滑化し、その後に100Ωの抵抗を負荷した時の点Aの電力波形と点Bの電圧波形を見てみま す。これ普通の電源回路に使います。判ってはいるのですが実際に試してみないと実感がわかないので。


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図11:赤は点Aで 計測した電力波形、青は点Bの電圧波形


 点Aの電力波形は図9と異な り電力を消費していない時間があります。こんp電力を消費していないじかんというのは平滑化前の電源電圧(両波整流電圧)がコンデンサーの電圧より低い時間で、電源電圧がコンデンサーの 電圧より高くなったはじめて電流が流れる(充電する)ためです。これだと交流の電圧が高い時だけ短時間に電流が流れることになります(たぶんトランスの唸 りはこれが原因ではないでしょうか)。単純な整流平滑回路でも相当に力率が悪いようです。これまでず〜っとこの回路で電源を作ってきたという事は、ず〜っ と力率を考えないで電源を作って来たんだな〜 ということになるのか。こんな事、参考書にはあまり載っていませんよね。


● 力率補正の試験


 電源の力率低下の原因は、電源電圧(両 波整流電圧)が平滑回路に使用するコンデンサーの電圧よ り高くならないと電流が流れないからです。それならコンデンサーに加える電圧をいつもコンデンサーより高くしてやれば問題は解決 するはずです(単純な解決策です。他にもあるかもしれません)。そこでコンデンサーの電圧より高い電圧を供給してやることにします。これにはDC-DCコ ンバータでよく利用する昇圧回路をコンデンサーの前に追加します(安易ですね)。今回は試験なので更に安易なチョッパー式の昇圧回路で試してみます。


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図12:平滑化するまえに昇圧回路を追加した例


 図12のように両波整流の後にインダクターと FET を使った昇圧回路を組込み、電解コンデンサーに加わる電圧を強制的に上昇させます。この時のスイッチング周波数は約100KHzです。制御していない回路 なので FET の降伏電圧まで上昇しそうです。


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図13:力率補正回路を追加した時の電力波形

赤は点Aの電力波形、青は点Bの電圧波形


 図13が昇圧回路(力率補正回路?)を使用した時の点Aの電力波形(赤)で す。若干波形は汚いでがほぼ両波整流の波形に近い図9のような電力波形になっています。単純な昇圧回路の力率補正、思った以上に有効のようです。全ての電化製品に力 率補正回路が組込まれていれば夕方のAC100の電圧波形も奇麗な正弦波になるのでは。出力の点Bの電圧波形ですが変なノイズが乗っているようです。力率補正、良さそうですがノイズ除去には苦労しそうです。

電力系の回路は意外 に面白いノウハウがありそう!


注意

 今回の力率補正に 使用した回路は実験的なものです。このままでは出力電圧が上昇し期待した電圧をはるかに超えてしまいま す。実際には出力電圧と電流を検知しフィードバックでスイッチングの特性を制御する必要があります。本を見ると色々と力率補正専用のICがあるようなので それを使った方が良いと思います(私は未だ使った事がありません)。

今のところ力率補正 する回路を作る予定がありません。今回の目的は単に力率補正の効果を確認するため試したものです。