PFMステップアップDC-DCコンバータ


2008/05/25 Nishimura Hiromi


 最近、微量流量計や眼球荷 重計測など小物の電子回路を作る仕事が多くなってきています。普通電源はAC100Vから取るのですが感電などの医療事故防止の観点と装置回りの配線の煩雑さ 防止の観点から電池を使う事が多くなってきました。私が作る装置はオペアンプ1〜2個程度なので、消費電流は多くても20mA以下。006P型の乾電池で も10〜20時間は持ちます。この時間が微妙。一回の手術は普通4〜5時間程度。2〜3回の使用で電池切れ。この2〜3回というのが微妙で、もったいない が使う度に電池交換という事に。それでも使用頻度が月に1〜2回であれば気にならないのですが週に1〜2回ともなれば普通の乾電池ではなく充電池の方 が.....という訳で006P型乾電池の代わりに普通の単三型・単四型充電池で動作させる事を考えてみました。


● ステップアップDC-DCコンバータなら長時間駆動

 私が作る小物の電子回路の 多くはオペアンプが主流ですが回路が複雑になると面倒なのでチップコンピュータのPIC12F683やPIC16F88を使います。そんな訳でメインの電 圧は5V。少々もったいないですが9V乾電池を三端子レギュレータで5Vにして使っています(効率56%)。そこで考えたのが単三・単四型充電池2本から ステップアップDC-DCコンバータを使い5Vにすること。仮にコンバータの効率が56%としても9V200mAhrで20時間が単四充電池 750mAhrだと25時間持つ事に。DC-DCコンバータの効率は少なくても80%以上の可能性が大きいので30時間も不可能ではないと思います。


● 使わないとき充電

 充電池を使用するとき面倒 なのは充電。でも装置の使用頻度が少ないなら使わないとき充電すればOK。ひょっとしたらトリクル充電だけでいつも使える状態にしておけるのでは。トリク ル充電は0.03C〜0.05Cなので750mAhrの場合には23mA〜38mA。この電流を定電流で流しておけばOKではないでしょうか。


● DC-DCコンバータ

 これまでDC- DCコンバータは電源の代わりとしか考えていなかったため小電流のDC-DCコンバータは使ったことがありませんでした。そこでインターネットで探してい ると共立電子に面白そうなHT7750Aと いうチップがありました。さっそくHOLTEKに アクセスしPFM Step-up DC/DC Converter SeriesData Sheetを取得。ながめてみると0.7Vから使用でき効率は85%で200mAの電流が取れるとの事。しかも値段は共立電子で一個 63円。さっそく購入してみました。


● 話半分でも使えるのか

 データシートに載っている 諸元性能。私のようなアマチュアが出せるはずも無く話半分と考えなくてはなりません。それでも0.7V,85%,200mAはオーバースペック。さっそく 試してもました。最初はデータシートに書いてある通りの回路で。

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 最初の試験結果が上記グラ フです。話半分として負荷を100mAの定電流負荷としたときの入力電圧と出力電圧の関係です。このチップ、話半分にもならないようですね。というより データシートには0.7Vの入力で5V200mAとれるとは書いてありませんので当り前なのかも。でも単四電池二本直列にしても5V100mA取れないと は、残念です。でも考えてみれば私の要求は5V20mAです。気を取り直しもう少し低めの電流で試験を再開。

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 これが20mA定電流負荷 試験の結果です。入力電圧が1.5V付近から5Vの定電圧になっています。これなら使えそうです。データシートに200mAというのは売り文句であり信用 する事はできないようです。でも部品点数が5個と少なく小さくまとめることができ一個63円は魅力的。

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 これが試験した回路の実 物。白色LED用としているために出力側には100Ωの抵抗が付いています。


● 問題は高価なタンタルコンデンサ

 データシートにはタンタル コンデンサーを使えと書いています。タンタルコンデンサ、いつも豊富に在庫している訳ではないので。手軽に使える積層セラミックと電解コンデンサーで試し てみることに。

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  試験には上記のような回路 を使用。この回路はブレッドボードに組み込み試験してみました。入力段には1.5μFの積層セラミックコンデンサーと47μFの普通の電解コ ンデンサーを並列接続。出力段には1.5μFの積層セラミックコンデンサーと普通の電解コンデンサーを並列接続。出力段の 電解コンデンサーを22μFと470μFの2つでどのような特性の違いがあるかを調べてみました。


● 22μFの電解コンデンサーでは使い物にならない

 出力段に22μFの普通の電解コンデンサーを接続し20mA定電流負荷と50mA定電流負荷を行ってみました。結果を下記に示します。

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 20mA定電流負荷では何 とか使えるような特性でしたが50mA定電流負荷では入力電圧の変化で出力電圧も大きく変化し使い物にならないようです。やはりタンタルコンデンサーを使 うべきなんでしょうか?


● ダメ元で470μFの電解コンデンサーを使ってみたら

 ダメ元で出力段に 470μFの普通の電解コンデンサーを接続し20mA定電流負荷と50mA定電流負荷を行ってみました。そうしたら何とタンタルコンデン サーを使うより良い特性が。そこで100mA, 200mA の定電流負荷にも挑戦。結果を下記に示します。

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 何と100mA定電流負荷 で22μFのタンタルコンデンサーでは入力電圧が3.5V以上必要だったのに470μFの普通の電解コンデンサーでは入力電 圧が1.8V付近から使えるようです。また出力電圧も安定し十分実用的です。


● 別に高価なタンタルコンデンサーを使わなくてもOK

 以上の結果より、 HT7750Aはデータシートに載っているような高価なタンタルコンデンサーを使用しなくても大容量の電解コンデンサーを使えば単三・単四型乾電池二本で 100mAの電流を取ることができるという結果でした。実際に出力電圧の波形を見ると出力段のコンデンサー容量が小さいと50KHz〜130KHzの 200〜400mVのリップルが観察できます。コンデンサーの容量を大きくするとリップルはありますが100mV以下となり、LCのフィルターで十分に低 減できオペアンプ回路に使用できるものでした。特に出力電圧の安定には大容量のコンデンサーが必須ではないかと思います。

 データシートに、何故にタ ンタルコンデンサーを使用せよと書いているのか、素人の私には判りませんが、想像するに電源回路が小さくなる、それを強調したかったのではないでしょう か。


● 今回の計測に使用した装置

 HT7750Aの入出力電 圧特性を計測するに2つの装置を使いました。一つはHT7750Aに入力する電源、名前を考えたのですが上手く付ける事ができず一応そのままで自動可変電 圧電源です。一般の実験計測用の電源にはPCと接続し電源電圧や電流をPCから制御できるのでわざわ作る必要の無いものです。でも図体が大きい、制御に PCを使う、自宅で使えない、などの障害があり結局作ってしまいました。詳しくは[自動可変電圧電源]を参照して下さい。

 もう一つはHT7750A の負荷になる装置です。今回の計測では普通の抵抗でも問題ないと思います。あえて定電流負荷にした理由は特にありません。ただ使ってみたかったそれだけの ような。これに関しては[定電流負荷装置]を参照して下さい。