コイル巻き治具


 [2015/03/24 06:53:41]


 今日はコイル巻き治具の紹介をしたいと思います。機械工作ではバネを使いたいときがあ ります。そんな時、皆さんはどうしていますか。私の場合、機械を分解した時に取っておいたジャンクのバネを利用する事が大半でした。最近では DIY のお店や通販で売っているので簡単に買う事ができます。そんなに高い訳でもなく(それでも¥100以上はしますが)、修理程度であれば大きさや力が決まっ ているので問題無く手に入れる事ができます。


 でも修理ではなく自分が作る装置に使う場合はどうでしょうか。プロなら経験で判ってい るのでカタログを調べ適切な物を購入できるでしょう。私の様な素人にはそんな真似は出来ません。使えそうな色々なバネを購入し、実際に試してみるしかあり ません。


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図1:巻線器の巻線送りヘッド移動用に使っている引きバネ


 図1は CNC 巻線機の巻線送ヘッドのワイヤーに張力を与える為に使っている引きバネです。他のパーツは何とか用意できたのですが、この引きバネだけは実際に使ってみな いとちょうど良いのが判りません。また、特殊な形状となるとさっぱりです。


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図2:巻線機テンションコントローラに使うバネ(名称不明)


 図2に使っている変な形状のバネは巻線の張力を検出ときに使っているものです。こんな 形状のバネって DIY のお店には売っていませんよね。結局のところ、自分で作った方が時間とコストの節約になります。このバネは手巻きで作りました。


 「電池ケースの製作」でマイナス極端子に使うバネも今回紹介する治具で作った物です。



● バネの種類


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図3:作り易いバネ


 図3に示すバネは、今回紹介する治具で作ったコイルバネの形状です。押しバネと引きバ ネ、そして高周波で使うコイル。高周波コイルはバネではないですが同じ治具で作ることができるので一緒に写しています。


 引きバネと押しバネですが、私が作るときはみんな一緒で、最初に引きバネ形状の物を作 り、出来上がった引きバネを無理矢理延ばし押しバネにします(何と適当な!)。こんな適当な作り方でも意外に使えます。


● バネの材料


 バネの材料。一番使い易いのがピアノ線です。黒錆の色が気になるのならステンレス線が良いと思います。非磁性のバネが欲しいならリン青銅ワイヤが良いと思います。ステンレスは磁石に着かないと言われていますが加工するとオーステナイ トからフェライトに相変換するので磁石に着く様になります。


● バネの材料の太さ


 材料の径は色々と用意しておいた方が便利です。φ0.3mm~φ1.0mm が良いと思います。径が 1mm を越えると結構な力で巻く必要があり、また取り外す時の力も凄いので非常に危険です(作業中は安全メガネは必須)。


● 治具

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図4:コイル製作治具


 それでは、コイル巻治具を紹介します。図4がコイル製作用の治具です。芯棒はコイルの 太さを決めます。芯棒は治具Bに固定されています。治具Aは芯棒を中心に自由に回ります。使い方の基本はコイルの材料になる線を治具Bに固定し治具Aを回 転させます。作るコイルの種類によって治具Aを回転させるのか治具Bを回転させるのか変わります。まあ、どちらを回転させてもコイルはできますが、作業の 危険性を考えるとしっかりと決めておいた方が安全です。


● 治具A


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図5:治具Aを拡大


 治具Aは芯棒に挿し、自由に回転することができます。治具B側にネジが装着されていま す。これは材料の線材を押さえ線材を芯棒に巻き取る役目をしています。線材の太さによってネジと芯棒の隙間が変わるので線材に合わせて取付け位置を変え隙 間を調整します。


● 治具B


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図6:治具Bを拡大


 治具Bに芯棒が挿し込まれ、固定されています。治具Bには線材を固定する穴が3つあり ます。細い線材用の穴(挿すだけで固定しません)が2つです。この2つの穴は右回転用と左回転用で、治具Bの横から斜めに線材を挿し込むようになっていま す。もう一つはバネ用です。太い線材の場合はしっかり固定する必要があるので芯棒の側に平行に穴が空いています。線材を挿したらイモネジを回し固定しま す。


● 完成治具


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図7:3Dプリンタで造形した物(φ5mm用)


 実際に3Dプリンタで作った物を図7に示します。写真の右に六角ドライバビットが付い ています。φ0.5mm 以上のコイルバネを巻くとき、結構力がいり、また戻りも強くなります。私の場合、安定して巻けるよう治具Bは電動ドライバを使って巻いています。電動ドラ イバを使うと力も入りませんし奇麗なコイルが巻けます。


● 高周波コイルを巻く


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図8:高周波コイルを巻いてみる


 それでは実際にコイルを巻いてみましょう。最初は高周波用のコイルを巻いてみます。高 周波用コイルの線材であるエナメル線は簡単に曲がるので最初の題材としては最適です。


(1)線材になるエナメル(ホルマル)線 φ0.5mm を用意します。

(2)芯棒とネジの隙間を 0.5mm にします。

(3)線材を治具Bの横穴から斜めに挿し込みます。

(4)左手で治具Bを持ち指で線材を固定し、右手で治具Aを回転させます。

(5)芯棒から治具Aを取外し、巻き上がったコイルを取り外します。


 以上で高周波コイルが完成しました。エナメル線は柔らかいので強い力でつまむと変形し てしまいます。注意して取り扱って下さい。治具B側のリード線は斜めになっています。コイルを反転し再度治具に挿して巻調整することで奇麗なコイルにする ことができます。


● コイルバネを巻く


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図9:コイルバネを巻いてみる


 それではコイルバネを巻いてみましょう。バネを図8の様に巻いても良いですが、図8の 方法では巻かれる前の線材も一緒に回転してしまいます。エナメル線は柔らかいので大きな問題にはなりませんがピアノ線やステンレス線では刺さったりするの で危険です。そこでコイルバネを巻く時には治具ABの向きを反対にし治具Aを左手に持つ様にします。これで巻かれる前の線材は回転せず、巻くと少しずつ短 くなっていくのが判ります。


 バネ材になるピアノ線やステンレス線は相当に反発が大きいです。細い線材を使う場合に は図8の方法でも作れますが、線材の径が 0.5mm 以上では手で巻くのは止めた方が良いです。図9のように電動ドライバを使った方が早く奇麗に安全に巻けます。


(1)線材になるピアノ線 φ0.5mm を用意します。端を70度程度折り曲げます。

曲げなくてもバネは作れますが、端が整列しなくなります。

(2)イモネジで線材を治具Bにしっかり固定します。

(3)治具Bに電動ドライバを装着します。

(4)左手で治具Aを持ち、右手で電動ドライバを持ち治具Bを回転させます。

線材が目に刺さらないよう注意して下さい。安全メガネを使うのが一番です。

巻きすぎ、線材が押さえ用ネジから外れた時、指に当たる場合があるので注意して下さ い。

(5)芯棒から治具Aを取外し、巻き上がったコイルを取り外します。


 以上でコイルバネが完成しました。完成したコイルバネは引きバネになります。


● 引きバネを押しバネに


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図10:引きバネを押しバネに加工する


 図9で巻いたバネは引きバネになります。押しバネが必要な時にはペンチを2つ使い押し バネを両側から引っぱります。これで押しバネの完成です。非常にアナログチックですが、これでも問題無く使えます。


● 焼き入れ等は不要と考えています


 コイルバネは製作後に焼き入れや焼き戻し処理が必要です。市販のバネはたぶんこの熱処 理をしていると思います。でも普段の工作に使うバネ程度であれば熱処理の必要は無いと思います(使えれば良いのですから)。



● コイル巻用治具の STL ファイル


 今回使ったコイル巻用治具の STL ファイルを置いておきます。3Dプリンタで作れますので試してみては如何でしょうか。


ダウンロード

 巻線治具φ5mm.zip 




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 [2015/03/24 10:00:15] 初稿


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