ステップアップコンバータの改造


 [2015/05/03 07:03:44]

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Fig-2 : 3LED電源モジュール パワーモジュール


 パルスアーク溶接やスポット溶接用の電解コンデンサーの充電。任意の電圧 (12V~35V)で充電できるよう、「3LED電源モジュール パワーモジュール 調整可能 ステップアップ」を購入しました。決め手は何と 言っても価格(¥730-)の安さと配送料無料な事です。仮に自分で作るとなると、使っている素子 LM2577-ADJ だけでも普通の通販では、それ以上の値段がします。それに、その他のパーツや送料を考えると......


 そんな訳で、「3LED電源モジュール パワーモジュール 調整可能 ステップアップ」を使う事に決め色々と試験をして います。自作だと目的に合うよう回路設計しますが、市販品を流用するとなると色々と問題が生じます。その点をどのように解決しているかを紹介したいと思い ます。ただし、現時点 [2015/05/03 07:37:18] で試験中です。


● 目的


(1)パルスアーク溶接やスポット溶接用の電解コンデンサーの充電。

電解コンデンサーの容量は 150000μF (0.15F)


(2)充電電圧は 12V~35V の指定した電圧。

12V → 10.8Ws(Joule)

35V → 91.9Ws(Joule)


0.15/2*|12,35|^2;

   10.8000    91.8750

.OK.


(3)入力は 12V のスイッチング電源。


(4)PIC 等のマイコンチップから制御可能な事。


(5)デジタルポテンションメータとして MCP4018(10KΩ)の使用。


● モジュールの試験


 上記目的に使用可能かどうかを試してみました。と言っても、モジュールに電源を接続 し出力電圧が 12V~35V になるのか。電解コンデンサーに接続した時に流れる電流を確認するくらいでしょうか。


● 電圧設定に問題あり


 モジュールの試験をしていると気になる点がありました。出力電圧が低いとき、10V 程度までは電圧調整用のポテンショトリマーで出力電圧はスムースに設定できます。でも 10V を過ぎると電圧設定が上手くできません。特に、出力が 20V を過ぎるとポテンショトリマーを心持ち回しただけで数Vも電圧が変化してしまいます。このポテンショトリマーは 15回転で 10KΩなので細かな調整ができるはずですが、異常です。当方の目的である出力電圧 12V~35V をはポテンショトリマーで設定するの微妙です。


● 回路パターンを追う


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Fig-2:


 出力電圧が高くなるとポテンショトリマーによる出力電圧調整が難しくなる。その原因 を探るためモジュールの電圧設定する部分の配線パターンを追ってみました。相当に簡略化していますが下記の Fig-3 のようです。


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Fig-3:


 LM2577 のデータシートを見ると電圧調整用のトリマー抵抗は R4 に相当する部分で行うのが普通の様ですが、購入したモジュールはグランド側にトリマー抵抗が付いているようです。Fig-2 実機の赤破線部分が Fig-3 回路図の赤破線部分に相当します。何故にこのような回路にしているのか疑問です。


 私にとっては逆に幸いしている点でもあります。が、それは後述。


● シミュレーション


 Fig-3 の電圧設定回路でトリマー抵抗の値と出力電圧の関係はどうなっているのでしょうか。そこで CalendarMemo を使ってシミュレーションしてみました。プログラムと実行結果は下記の通りです。抵抗値は、例えば R4 に 10 を代入していますが、これは 10KΩの値を代入していると考えて下さい。


xx= series(0,10,10/128);

R6 = 0.22;

R4 = 10;

x = xx+R6;

y = 1.23*(R4+x)/x;

parametricPlot(xx,y);

memoPicture004.jpg


Fig-4: トリマー抵抗の値と出力電圧の関係


 Fig-4 はシミュレーション結果のグラフです。Fig-4 のグラフを見て判るよう、トリマー抵抗が高くなるに従って出力電圧は低下します。でも直線ではありません。抵抗値が高い、出力電圧が低い時、トリマー抵抗 の値変化に対して出力電圧の変化は緩やかです。しかし、トリマー抵抗が低い、出力電圧が高い時は少ないトリマー抵抗の変化に対して出力電圧は大きく変化し ます。


 特に、トリマー抵抗がゼロ付近では出力電圧は60V近くまで上昇します。モジュール に付いている平滑用の電解コンデンサーの耐圧は 50V でした。トリマー抵抗の設定が悪いと電解コンデンサーの耐圧を越えてしまう可能性があります。中国では家電が爆発するとのニュースをよく見ます。電力供給 の電圧が安定していないのが原因だろうと思っていましたが、回路設計がいいかげんで爆発が頻繁に起こっている可能性もあります。


 それにしても、気になる設計です。せっかくトリマー抵抗に直列に R6 (220Ω) が接続されているのですからもう少し大きな抵抗にすることで出力を電解コンデンサーの耐圧以下にすることができると思うのですが。


xx= series(0,10,10/128);

R6 = 0.33;

R4 = 10;

x = xx+R6;

y = 1.23*(R4+x)/x;

parametricPlot(xx,y);

memoPicture005.jpg.OK


 上記の様に R6 を 330Ωに変更するだけで出力電圧を電解コンデンサーの耐圧以下の 40V にすることができます。抵抗一本変更するだけなのに何故に危険な真似をするのでしょうか? この中華クオリティが理解できません。少なくても普通の技術者 なら判るはず。これは中華でも同じでしょう(そう望みます)。判ってるはずなのに、何故かそれができない。理由は? それを考えるのも妄想が広がります。


● 改良


 Fig-4 の特性は実機の特性とほぼ同じです。Fig-3 の推定回路はほぼ間違いないと言えるでしょう。できれば回路パターンを変更せずに R4,R6 の抵抗値を変更するだけで 12V~35V の電圧設定をスムースにできるようにしたいものです。


 では、どうするか。これは簡単で上記プログラムの R4,R6 に代入する値(抵抗値KΩ)を色々と変更しプログラムを実行するだけです。要は力任せの逆問題解法です。


 で色々と力任せに試したところ、下記のようになりました。


xx= series(0,10,10/128);

R6 = 3.3;

R4 = 100;

x = xx+R6;

y = 1.23*(R4+x)/x;

parametricPlot(xx,y);

memoPicture006.jpg

Fig-5:


 R4 を 10KΩから 100KΩに変更。 R6 を 220Ωから 3.3KΩに変更する。これでトリマー抵抗(10KΩ)の変更で出力電圧は 11V~38V まで変化することが判りました。出力電圧も最高で 38V~39V なので電解コンデンサーの耐圧も問題有りません(倍の余裕があれば安心なのですが)。残念ながらトリマー抵抗の値と出力電圧の関係(Fig-5)は直線で はありません。少なくても Fig-4 の特性より良いと思います。


● 実機の抵抗を変更する


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Fig-6: 電圧設定用抵抗 R4, R6


 シミュレーションでよさげな抵抗値が判りました。さそく実機(モジュール)の抵抗値 を変更し、シミュレーションの通りになるのか試してみます。R4 を 10KΩ(103) から 100KΩ(104) に変更します。また R6 を 220Ω(221) から 3.3KΩ(332) に変更します。表面実装(SMD)の抵抗なので相当に面倒です。私の様な老人(老眼)では実体顕微鏡が不可欠。Fig-2 の破線部分を拡大したのが Fig-6 の写真です。この R4, R6 を変更します。


memoPicture008.jpg

Fig-7: R4, R6 を変更


 R4, R6 を変更した様子を Fig-7 に示します。チップ抵抗が小さく実体顕微鏡を使っても奇麗にハンダ付けできませんでした。こんなものでも大丈夫でしょう。


● 実際に試す


 Fig-7 のように抵抗を交換しモジュールに 12V 電源を接続してみました。シミュレーションの通りトリマー抵抗を調節すると電解コンデンサーの耐圧を越える事は無く、 11.4V から 38V の電圧調整ができました。問題であった出力 20V 以上でもスムースに電圧の設定ができました。


● 結果

 このモジュールは2つの抵抗を変更する事で、パルスアーク溶接やスポット溶接用の電 解コンデンサーの充電に使える事が判りました。入力電流を見ても最高で2~3Aであり、 LM2577 の電流制限が効いているようです。これなら 0.15F の電解コンデンサーを直接接続しても問題ないと思います(?)。


● PIC マイコンチップからの出力電圧制御


 残念ながら、まだ PIC マイコンチップからの出力電圧制御を行う作業に進んでいません。ということで、これからの記述は推定・予想です。


● デジタルポテンションメータ


  PIC マイコンチップからの出力電圧制御を行うにはディスクリート部品であるポテンショトリマー抵抗をデジタル制御できる物に変更する必要があります。目を付け たのが「デジタルポテンションメータ」です。抵抗値もシミュレーションで使った実機と同じ 10KΩです。問題は電圧。半導体素子は電源電圧を越えるとラッチアップで壊れてしまいます。この「デジ タルポテンションメータ」も同じと思って構わないと思います。電源電圧は 5V 。これを越えた電圧をピンに加えると壊れるでしょう。残念ながら R4 を「デジ タルポテンションメータ」に交換すると素子の耐圧を遥かに越えるので無理です。


 Fig-3 の回路図を見るとトリマー抵抗は R6 とグランドの間にあります。 R6 は R4 で分圧され電圧は 1.23V になるよう LM2577 で制御されています。と言う事はトリマー抵抗に加わる電圧は常に 1.23V 以下ということになります。よって、何の問題も無しにトリマー抵抗を「デジ タルポテンションメータ」に交換できるということです。実際に試してみないと判りませんが、少なくても素子は壊れないだろうとの予 想です。まあ、壊れても ¥730 なのでグスッっと思う程度でしょうか。


 電圧設定の奇妙なトリマー抵抗の位置。これが幸いな事に私の目的にかなったもので、 配線パターンの変更無しにすることができます。


● おわりに


 中華製の電源モジュール。信じられない程の安さで気軽に壊れるのを気にせず試す事が できる。非常に嬉しいと思います。でも設計上の問題があり、そのまま使うには相当の度胸がいります。できるだけ調べ、可能なら問題の無い事を確認してから 使った方が良いと思います。


 今回の様に、少し調べることで何が問題なのか判ります。また抵抗二本交換するだけで 問題を解決する事もできます。安いからと言って安易に使うのは止めた方が良いと思います。


 不思議なのは、ほぼ同じ物が日本の通販サイトで売っている事です。価格は3~10倍。何 故にこんなに高いのでしょうか。もし同じなら価格は高くても上記の様な問題が生じるかもしれません。逆にきちんと設計し対策がとられているのかもしれませ ん。入手して調べた訳では無いので想像です。想像をたくましくすると、安いのはパチモンという可能性があります。まったく同じにすると訴えられるから抵抗 値を変更するとか、通常では考えられない位置にトリマー抵抗を入れるとか(私にとっては幸いですが!)。たぶん技術者は判っていると思います。でもパチモ ンを売るという商売が邪魔をして、このような変な抵抗値や回路になったのかもしれません(あくまでも想像です)。


 安い物を買って文句を言うのもなんですが、商品を世に出す商人の考え方に日本と中華 圏の方々とは大きな違いがあるのではと思ってしまいます。色々理由はあるでしょうが、その根底にあるのはモラルの崩壊なのでは。そう考えると中華圏の現象 が色々と納得できます。今は一時的に儲かるかもしれませんが、長い目で見た時、それが得なのか?


 中国は共産党支配なので「All for one and one for all. 」は理解していると思うのですが(生協で使っている言葉ですよね?)。歴史として封建社会(三銃士の世界だな!)を経過していない時点で..... 難しい問題なのかもしれませんね。



 [2015/05/03 10:37:38] 初稿


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